山本裕子著『フォークナーの晩年様式(レイト・スタイル)――その展開と変容』(松籟社、2023年)
ご恵贈いただいた本。山本裕子先生の『フォークナーの晩年様式――その展開と変容』(松籟社)。「晩年様式」には「レイト・スタイル」のルビがついている。スミ1色のカバーだが、松籟社さんの文学研究書の多くがそうであるように、とても瀟洒な佇まいの本だ。
多くの人にとって、フォークナーの代表作といえば、『響きと怒り』であり『死の床に横たわりて』であり『八月の光』であり『アブサロム、アブサロム!』であり『行け、モーセ』であろう。これらは1929年から1942年に発表された、いわゆる「中期の作品群」である。
しかし、フォークナーの評価を決定づけたのは、マルカム・カウリー編の『ポータブル・フォークナー』(1946年)の出版からで、この本が出たとき、フォークナー作品で絶版になっていなかったのは『サンクチュアリ』のみであったという。ちなみにフォークナーのノーベル賞受賞は1950年であった。
ノーベル賞を受賞したあともフォークナーは『尼僧への鎮魂歌』『寓話』『村』『町』『館』『自動車泥棒』といった長編小説を書いた。が、これらの小説になじんでいる読者は多くないし、これらの作品群への文学的評価もあまり高くない。それは専門家の間でも同様である。
1990年代前後から、これらの後期作品の再評価(と、いわゆる中期作品への高い評価に潜んでいる批評的イデオロギーの暴露)が始まったというが、それにもかかわらず、「フォークナーの後期作品群は、今日においても批評的評価が定まっていない」という。
本書の試みは、これら後期作品の再評価である。そのさい、山本先生が注目するのは、後期作品にみられる「老いのペルソナと自伝的形式」(メモワール形式)である。これまで筆力の衰えや想像力の枯渇と認識されてきた要素を、フォークナーの「レイト・スタイル」として捉え直そうとするのである。
フォークナー自身が、後期作品について「複雑で形の整わない<スタイル>」という言い方をしていたらしい。しかし、均整や統一という価値観は常に万能であるわけではあるまい。ライフ・ライティングという観点から捉え直すことで、後期作品はどのような新しい側面を見せることになるか。
版元のHPにリンクして目次を紹介しようと思ったのだが、今日の時点ではアップされていないので、日本アメリカ文学会のHPに掲載されていた目次に
リンクをはっておく。
(2024年1月10日記)