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日本の出版界でも自己啓発本は大きな売上げが見込めるジャンルの一つである。じつは私は自己啓発本はたぶん全く読んだことがない。前の会社で新人として採用した後輩にどんな本をふだん読むのか尋ねたところ、自己啓発本です、という答えが返ってきて、時代の変化を感じたことがある。
尾崎先生はこれまでもハーレクインロマンスを本のテーマに掲げていた。ハーレクインロマンスといい、今回の自己啓発本といい、一部の読書人からは一段低く見られているジャンルの本だが、こういうところに目をつけるあたり、先日亡くなられた亀井俊介先生のお仕事に連なるもののような気もする。
歯切れのよいリーダブルな文章はいつもの尾崎先生ならではのこと。びっくりするぐらいたくさんの自己啓発本がこの本では紹介されているが(よくこんなに読んだものだ!)、『チーズはどこへ消えた?』とか『世界最強の商人』とかのあらすじ紹介などの実にうまいこと!
アメリカ文学者らしい記述もある。自己啓発本は、アメリカ文学史には必ず登場するフランクリンやエマソンやソローなどと思想的にも極めて近いところにある。『森の生活』に日付を入れた日記形式で書かれていたら、それは日めくり式自己啓発本になったはずだ、という指摘も面白い。
平凡社のHPへのリンクも紹介しておこう。コラムでは日本の自己啓発本についての言及もある。
自己啓発本は日本でも一つの大きな市場を作っている。流行しているがゆえに、自己啓発本を批判的に読み解く本も出ているが、尾崎先生の本は、まずはとにかく自己啓発本をちゃんと読んでみるところから始まっている点が好ましいと思う。
先に書いたように私自身は自己啓発本は読んだことがない。「人生の指南書」と書いてあるだけに敬遠してしまう。私が買うのは南條竹則さんの『人生はうしろ向きに』だの、クシュナーの『なぜ私だけが苦しむのか』だの、ジティブ系ではなくネガティブ系ばかりだ。どうしてだろう。
この本の最後にはこんなことが書いてある。「人が自己啓発本なるもの全般に対して抱く好悪は、一途な夢を実現した人を身近に知っているか否か、あるいはそういう人に素直に憧れを抱いた経験があるないかに依るところが大きいのではないだろうか」。そうかもしれない。
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