北烏山編集室
 
 
Arata Ide, Localizing Christopher Marlowe: His Life, Plays and Mythology, 1575-1593 (D. S. Brewer, 2023)
 
 
元日本シェイクスピア協会会長にして慶應大学教授である井出新先生の著書である。井出先生は日本を代表する国際的シェイクスピア学者のお一人。
 
井出先生は、昨年8月にシェイクスピア『冬物語』の注釈本を、10月に一般読者向けの『シェイクスピア、それが問題だ!』を出されている。それに加えて、超弩級の本格的な研究書を年末に送っていただいて驚嘆した。井出先生らしい、衒いのない正統派の研究書と言ってよい。
 
書名にあるように、この本は劇作家クリストファー・マーロウの伝記的研究である。敢えて「伝記」とは書かない。物語として読めるような、そして昔ながらの方法論に基づいた「伝記」でなく、社会文化的なコンテクストのなかでマーロウを捉え直したアカデミックな業績である。
 
版元のHPにもリンクを貼っておく。内容については目次などを参照。 マーロウは、伝記的な証拠があまり残っていない人で、それがゆえに謎の多い作家である。毀誉褒貶も激しく、スパイ、裏切り者、無神論者などのレッテルも貼られてきた。
 
井出先生が本書でやろうとしていることは、マーロウの神話剥がしである。マーロウのそういうレッテルが彼の政敵によるイメージ操作であることを示すとともに、マーロウが属していたlocal なコミュニティについて丁寧に調べることで、いわば等身大のマーロウ像を提示しようとする。
 
「出世意欲に満ち、多くの大学の友人たちと同様に社交好き、貧しいがゆえに地方の名士や枢密院の庇護を得ようとし、持てるみずから文化的財産を最大限活用する男にして、お芝居の力にも熟知している社会的批評家。1590年代のイングランド文化に衝撃を与えたがゆえに、政敵からは無神論者として仕立て上げられた男」(24頁の一部を意訳)。
 
井出先生が提示しようとしているのは、こういうマーロウ像である。 新年しょっぱなに紹介する本としては、この本がいいと思っていた。出版を言祝ぎたい。
 
                               (2024年1月4日記) 


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